最終更新日 2026年7月29日 by rostea
はじめまして、歯科技工士の宮下湊です。
技工士学校を出てから都内の技工所で12年働きました。
前半はクラウンブリッジ、後半は義歯部門とCAD/CAM部門の立ち上げを担当しています。
2021年に独立して、今は受託の技工をやりながら、こうして技工まわりの記事も書いています。
この数年、同業の方から一番よく相談されるのが「ミリングマシン、買ったほうがいいですか」という質問です。
展示会に行けばメーカーの方が熱心に説明してくれますし、導入事例のパンフレットも立派です。
ただ、パンフレットに載っていない数字を知りたくて相談してくる人がほとんどなんですね。
この記事では、買う場合と外注に出す場合のコストを、出典のはっきりした数字で並べます。
そのうえで、1人〜数人規模のラボがどこで判断を分けるべきかを書きます。
結論だけ先に言うと、「削る本数が読めているなら買う、読めていないなら出す」です。
なぜそうなるのかを、順番に説明していきます。
目次
まず前提の確認|CAD/CAM冠の仕事は増える。ただし単価は上がっていない
判断の前に、市場のほうを見ておきます。
ここを外すと、コスト計算だけ精密にやっても答えを間違えます。
2026年6月の改定で適応範囲がまた広がった
2026年度の診療報酬改定で、CAD/CAM冠まわりの適応がさらに拡大しました。
歯科材料メーカーのYAMAKINがまとめた2026年診療報酬 定期改定概要によると、主な変更は次のとおりです。
- CAD/CAM冠は大臼歯の咬合支持に関する適応条件が撤廃され、第三大臼歯にも適応が広がった
- CAD/CAM冠・CAD/CAMインレーともに、後継永久歯のない乳臼歯へ拡大された
- 光学印象の対象がCAD/CAM冠へ広がり、点数が150点に引き上げられた
- 鋳造チタンブリッジが新たに保険適用になった
あわせて、2026年6月1日からCAD/CAMブリッジも保険適用になっています。
つまり、指示書として回ってくるCAD/CAM補綴の絶対数は、これから確実に増えます。
ここは楽観して構いません。
数は増える。でも技工料は上がらない
問題はこちらです。
大阪府歯科保険医協会が2024年に実施した歯科技工所アンケートに、生々しい数字が載っています。
大阪府内の技工所1,257軒に送って回答154件、回収率13.8%という調査です。
標本は決して大きくありませんし、大阪府に限った話でもあります。
それでも、ここまで踏み込んだ数字を出している調査はほとんどありません。
この調査によると、2024年の改定前後でCAD/CAM冠の技工料を答えたのは11件。
改定前が5,500〜9,500円、改定後が6,000〜9,000円で、11件のうち4件は値下がりしていました。
調査全体で技工物の値上げができたのはおしなべて2割程度。
そして、値上げがあった技工物のなかでCAD/CAMは最も少なかったと報告されています。
数は増えるが、1本あたりの実入りは増えない。
むしろ削られる方向にある。
この前提を頭に置いたうえで、設備投資の話に入ります。
買う場合、実際にいくらかかるのか
「ミリングマシンいくら」で検索すると本体価格は出てきます。
ただ、本体を買っただけでは仕事になりません。
本体だけでは1本も納品できない
歯科材料商社の大榮歯科産業が2025年5月に公開したはじめてのデジタル技工、いくらで医院内製化できる?に、機器ごとの価格帯がまとまっています。
歯科医院の院内内製化を想定した記事ですが、機器の単価自体は技工所でも変わりません。
| 機器 | 価格帯 |
|---|---|
| ミリングマシン(3軸) | 250〜350万円 |
| ミリングマシン(5軸) | 500〜900万円 |
| シンタリングファーネス | 100〜200万円 |
| 3Dプリンター(DLP) | 120〜300万円 |
| CADソフト | 無料〜100万円前後 |
| 洗浄・重合装置 | 30〜50万円 |
| PC | 30〜50万円 |
同記事では、対応範囲ごとの総額もこう整理されています。
- 部分内製化(仮歯・模型・サージカルガイド)でおよそ200〜320万円
- 仮歯とPMMA補綴まで対応する簡易加工でおよそ500〜700万円
- ジルコニアまで削るフル内製化でおよそ1,000〜1,500万円
ジルコニアを自分のところで完結させたい、という話になった時点で、1,000万円を超える設計になります。
ここは覚悟しておいたほうがいいところです。
なお、3軸と5軸の差は「削れる形状」の差です。
アンダーカットのあるアバットメントや、傾斜のついた形態を狙うなら5軸が要ります。
逆に保険のCAD/CAM冠中心なら、3軸でも組める構成はあります。
自分が受けている仕事の内訳を先に棚卸ししてから、軸数を決めてください。
見落とされやすいのは、買ったあとの毎月
初期費用より、実際に効いてくるのは月々の固定費です。
歯科機器を扱う大信貿易が公開しているミリングマシン導入前のシミュレーションに、標準的な試算が載っています。
代理店が出しているツールなので販促寄りである点は差し引いて読む必要がありますが、費目の立て方は実務に近いです。
| 費目 | 月額 |
|---|---|
| ミリングマシン償却費 | 50,000円 |
| 周辺機器償却費 | 10,000円 |
| メンテナンス費用 | 25,000円 |
| CAMソフトウェア償却費 | 25,000円 |
| ライセンス料金 | 8,333円 |
| 合計 | 118,333円 |
同ツールでは、この条件下での保険CAD/CAM冠1歯あたりのコストを5,467円と算出しています。
そして外注に出した場合の参考価格を「1歯5,000円以上」としています。
ここまでだと「あまり変わらないな」と思うかもしれません。
ただ、このシミュレーションには重要な但し書きがついています。
在庫リスク、切削時の破折リスク、人件費、集塵機などのメンテナンス費用は含まれていません。
つまり実際の内製コストは、この5,467円よりも上に振れます。
特に人件費が入っていないのは大きいです。
CADで設計して、ネスティングして、削って、外して、焼結して、仕上げる。
この時間を誰かが使っている以上、それはコストです。
私自身、CAD/CAM部門の立ち上げをやったときに一番読み違えたのがここでした。
機械が削っている時間はタダだと思っていたんですが、実際にはマシンの前で待つ時間、削り出しの失敗を作り直す時間、バーの交換とメンテの時間が積み上がります。
最初の半年は、正直まったく利益が出ませんでした。
外注(ミリングセンター)に出す場合のコスト構造
一方の外注は、構造がまったく違います。
固定費がゼロで、変動費だけ。
削る仕事がない月は、支払いもゼロです。
実際の料金と納期はどのくらいか
具体的な水準を見ておきましょう。
横浜の歯科技工所が運営する東日本ミリングセンターが価格表を公開しているので、そこから実勢を引きます。
| 製品 | 価格(税抜) | 納期 |
|---|---|---|
| STLプラン HT/LT | 3,500円〜(材料代込み) | 最短3日 |
| ジルコニア各種 | 3,500〜6,500円 | 3〜4日 |
| CAD/CAM冠(クラスI〜IV) | 3,500〜7,600円(ブロック代込み) | 2〜3日 |
| CAD/CAMインレー | 3,400〜6,800円 | 2〜3日 |
| チタンミリング | 5,000〜6,000円 | 5〜6日 |
| 3Dプリント模型 | 1,000〜1,500円 | 2〜3日 |
注目したいのは、価格が「送信方法により変動する」という点です。
STLデータだけ送るのか、模型ごと送るのかで単価が変わります。
これは、設計工程を自社に残すほど外注単価が下がるということです。
CADソフトと口腔内スキャナーのデータを扱う体制さえあれば、削る工程だけを外に出せます。
投資を段階的に分ける、という発想がここで効いてきます。
CADまでは自分で持って、ミリングとシンタリングは外に出す。
これなら初期投資は100万円台に収まる可能性があります。
外注のデメリットも正直に書いておきます
いいことばかりではありません。
- 納期が読めるぶん、短くはできない。当日仕上げの飛び込みには対応できない
- 微妙な形態修正のやりとりに時間がかかる。伝わらないときは本当に伝わらない
- 単価が固定されるので、数が増えても1本あたりのコストは下がらない
- 委託先の品質と経営に、自分の看板が依存する
最後の項目は軽く見ないでください。
外注先が急に閉めたり、担当者が変わって品質が変わったりすると、そのクレームは自分のところに来ます。
損益分岐をどう考えるか
では、どこで逆転するのか。
厳密な計算は各社の変動費が分からないと出せません。
ここでは考え方だけ示します。
内製の固定費が月118,333円だとすると、これは外注単価3,500円の仕事に換算しておよそ34ユニット分です。
5,000円の仕事なら約24ユニット分に相当します。
ただし、この固定費のほかに材料費と人件費がかかります。
ですから実際の分岐点は、この数字よりかなり上に来ます。
私の感覚では、月100ユニットを安定して超えていて、その状態が3年続く見込みがあるなら内製を検討する価値がある、という線です。
これは経験則なので、数字の根拠があるわけではありません。
ただ、償却期間を考えると、判断に必要なのは「今月の本数」ではなく「3年間の本数の見込み」です。
内製と外注を並べると、こういう整理になります。
| 観点 | 内製(買う) | 外注(出す) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 200万〜1,500万円 | ほぼゼロ |
| 月の固定費 | 約12万円+人件費 | ゼロ |
| 1本あたり | 本数が増えるほど下がる | 本数が増えても変わらない |
| 納期 | 自分でコントロールできる | 2〜6日を見込む必要がある |
| 仕事が減ったとき | 固定費だけ残る | 支払いも減る |
| 技術の蓄積 | 自社に残る | 残りにくい |
| リスク | 資金繰りと陳腐化 | 委託先への依存 |
売上が読めるなら内製、読めないなら外注。
シンプルに言えばそういうことです。
現場の技工所は、実際どう考えているのか
数字の話が続いたので、生の声も見ておきます。
先ほどの大阪府歯科保険医協会の調査に、興味深い結果があります。
「CAD/CAM・リモートワークは技工士不足の解消に効果があるか」という設問への回答です。
| 回答 | 個人開設 | 法人 |
|---|---|---|
| あると思う | 15.6% | 41.9% |
| ないと思う | 65.1% | 15.6% |
同じ業界の同じ設備の話なのに、評価が真っ二つに割れています。
協会の政策部会は、この差についてこう分析しています。
CAD/CAMの機械が高額であるため個人技工所で買えないことが背景にあり、個人と法人で差が開いたのではないか、と。
自由記述にも、この構造がはっきり出ていました。
- CAD/CAM冠を推進しても利益はあまり出ない。初期投資や保守を考えると個人はなかなか手が出せない
- 機器が高額すぎる割に、大きな技工所は技工料をダンピングしてくるので個人は敵わない
- デジタル化に伴いメーカー主導の業界になったので、技工士ですら開業に2,000万円は必要
一方で、こういう声もありました。
開業から37年、技工物の価格を値上げできていない。長く働いても生活がやっと。今年はCAD/CAMで時間が短縮できて売上が増えている。やはり機械化しかない。
否定と肯定、どちらも本音だと思います。
違いは「削る本数が読めているかどうか」だと私は見ています。
なお、この調査の回答者は個人開設が71%、開設者の年齢は50歳以上が80%を占めています。
1週間の労働時間が66時間を超える人が半数という数字も出ています。
背景を知ったうえで読むと、機械を買う買わないという話が、単なる設備選定ではないことが分かってもらえると思います。
業界全体の数字も押さえておく
もう少し引いた視点も置いておきます。
厚生労働省の令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況によると、2024年末時点の就業歯科技工士は31,733人、歯科技工所は20,278か所です。
前回調査から技工士が1,209人(3.7%)、技工所が563か所(2.7%)減っています。
年齢構成はもっと厳しくて、65歳以上が19.3%で最多の年齢階級。
50歳以上が全体の56.0%を占める一方、35歳未満は16.1%しかいません。
人が増える見込みがないなかで、仕事量は増える。
この状況で、機械化に頼るか、外部の生産能力に頼るか。
どちらも「人手を補う」という同じ目的への、別のアプローチだと考えると整理しやすいと思います。
それでも買うと決めた人へ|先に動いておくこと
内製に踏み切ると決めたなら、発注する前にやっておくべきことがあります。
中小企業経営強化税制は「買う前」に手を打つ
これを知らずに買ってしまう人が本当に多いです。
中小企業庁の中小企業経営強化税制は、経営力向上計画の認定を受けたうえで対象設備を取得した場合に、即時償却または取得価額の10%の税額控除を選べる制度です。
資本金3,000万円超の法人は控除率が7%になります。
ミリングマシンは機械装置に該当するので、対象になり得ます。
1,000万円の設備を即時償却できるかどうかは、資金繰りにかなり効きます。
重要なのは、原則として設備を取得する前に計画の申請が必要という点です。
取得後60日以内の申請受理で特例的に認められる場合もありますが、年度内の認定が要ります。
機種を決める段階で、顧問税理士に一度話を通しておいてください。
なお、令和8年度の税制改正で適用期限が令和10年3月末まで延長され、器具備品の取得価額要件が40万円以上に引き上げられています。
条件は変わるので、必ず最新の公式情報で確認してください。
補助金は「あてにしない前提」で調べる
ものづくり補助金も選択肢に入ります。
中小企業庁と中小機構による制度で、設備投資の資金調達手段として使われています。
ただし、この制度は現在再編・統合が進行中で、名称も要件も動いています。
採択される保証もありません。
「補助金が通ったら買う」ではなく、「自己資金と融資で買える計画を立てたうえで、通ったら前倒しする」くらいの位置づけが健全です。
機種選定で最低限確認したいこと
カタログスペックより先に確認してほしい項目があります。
- オープンかクローズドか。他社のディスクやブロックが使えるかで、材料費の自由度がまったく変わります
- 保守契約の年額と、契約に含まれる範囲。スピンドル交換が含まれるかどうかは要確認です
- 故障時の代替手段。修理中に仕事が止まると、その間の売上はゼロです
- CAMソフトのライセンス形態。買い切りか年額かで、5年後の総額が変わります
- 集塵機や電源など、設置環境の追加工事の要否
とくに1つ目と3つ目は、導入してから気づくと取り返しがつきません。
買わないと決めた人へ|外注先の選び方
外注でいく場合、次のテーマは「どこに出すか」です。
技工所として自分の看板で納品する以上、委託先選びは品質管理そのものです。
最低限、次の観点は確認してください。
- 歯科技工士法第21条に基づく届出済みの技工所か。開設者は開設後10日以内に都道府県知事への届出が義務づけられています(歯科技工士法)
- 国内製作か海外委託か。患者さんに聞かれたときに答えられる状態にしておくべきです
- STLデータのみでの受注に対応しているか。設計を自社に残せば単価が下がります
- データ送信の締切時刻と、そこからの実納期
- 再製作時の対応と費用負担のルール
このうち届出の点は基本ですが、意外と確認されていません。
歯科技工士法は歯科技工所の定義や指示書の要件も定めているので、一度目を通しておいて損はないです。
もうひとつ、実務的におすすめしたいのが「中の様子が見える委託先を選ぶ」ことです。
価格表と納期表だけでは、どんな設備でどんな人が削っているのかは分かりません。
最近は受託側が現場を公開しているケースが増えていて、これは発注者にとってかなり有益です。
たとえば横浜を拠点に東日本ミリングセンター(渋谷)と中日本ミリングセンター(諏訪)を運営している株式会社T.D.Sの技工現場が見られる公式Instagramでは、実際の作業風景や導入機器、社内の様子が継続的に発信されています。
どういう設備で、どういう体制で削っているのかが見えると、見積書の数字の意味が変わってきます。
見学を受け入れてくれるところなら、一度足を運ぶのが一番確実です。
削り出しの後処理をどこまでやっているか、シンタリングの管理をどうしているかは、現場を見れば10分で分かります。
まとめ
長くなったので、判断の軸だけ整理します。
- CAD/CAM補綴の仕事量は2026年の改定で確実に増える。ただし技工料単価は据え置きから下落傾向にある
- 買う場合、ジルコニアまで対応するなら1,000〜1,500万円。月の固定費はおよそ12万円、これに人件費と材料費が乗る
- 出す場合、CAD/CAM冠で1本3,400〜7,600円、納期2〜3日。固定費はゼロだが本数が増えても単価は下がらない
- 分岐点は「今月の本数」ではなく「3年間の本数の見込み」で考える
- 買うなら、発注前に中小企業経営強化税制の計画認定を検討する
- 出すなら、届出の有無・製作地・データ運用・再製作ルールを確認し、できれば現場を見る
最後にひとつだけ。
私は、買うほうが偉いとも、出すほうが賢いとも思っていません。
実際、CADまでを自社で持って削りだけ外に出す形で、うまく回しているラボをいくつも知っています。
全部を自前で抱えることだけが技術の証明ではないはずです。
大事なのは、どちらを選んだにせよ、その判断を自分の数字で説明できることだと思います。
展示会でいい機械を見て気持ちが動いたら、帰ってから直近12か月の本数を数えてみてください。
答えはだいたい、そこに書いてあります。




